REC 公式ブログ REC 多様化するソーラーシェアリングの設計と安全性

多様化するソーラーシェアリングの設計と安全性

ソーラーシェアリング

 日本国内でソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)の本格的な普及が始まってから9年が経ち、その間に発電設備のあり方も多様化してきました。ソーラーシェアリングは農業と共存する太陽光発電事業を実現することで、農業生産を継続しながら農業者の所得向上を図ることが当初の目的の一つでしたが、FIT制度によって太陽光発電事業が投資に傾く中で農業生産よりも売電事業の収益確保に重点を置くような設備設計も増加しました。

 ソーラーシェアリングの設計は、大きく藤棚式と足高式(アレイ式)の2つに分類することが出来ます。藤棚式は太陽光パネルを上空に均等に配置することで、日射量が農地に均一に当たるようにすることを目的としていますが、敷地内に設置できる太陽光パネルの枚数が野立てよりも少なくなることもあり、資材や施工コストは高くなります。一方の足高式は、野立ての太陽光発電設備に用いられるアレイの支柱部分だけを高くした設計となっており、太陽光パネルが密集して設置されるために日射量には大きなムラが生じますが、資材や施工コストは藤棚式よりも安く済むほか、太陽光パネルを野立て同様に敷地内に詰めて設置することもできます。そのため、設置費用の削減を優先して売電事業の収益を最大化することを目指すには都合が良い設計です。

藤棚式のソーラーシェアリング
藤棚式のソーラーシェアリングの例(筆者撮影)
足高式(アレイ式)のソーラーシェアリングの例
足高式(アレイ式)のソーラーシェアリングの例(筆者撮影)

藤棚式と足高式に共通した課題として、どちらもソーラーシェアリングでは農作業のための空間を確保するために、野立てより設置コストが高くなります。それでも何とか架台のコスト削減を図ろうとした結果、構造が脆弱になってしまったり、施工業者が農地への設置や農作業の効率化に際して注意すべきポイントを把握していなかったりすることで、台風などによる破損・倒壊事故や農作物の生育問題が一定数発生しています。また、大規模な農業経営に用いられる農業機械の使用には制約が生じる部分もあり、高圧~特別高圧規模で採用した場合に農業の経営規模に見合わない小型の農業機械を使わざるを得ず、生産性が低下するといった事例も見受けられます。こうした問題を減らしていくために、NEDOの委託事業の一環として「営農型太陽光発電システムの設計・施工ガイドライン2021年版」が公開されています。

傾斜地設置型、営農型及び水上設置型の太陽光発電システムの設計・施工ガイドラインについて(2021年版)

 その他の設計方式として、何度か登場しては広く普及せずに消えていった様々な追尾式、それから近年ヨーロッパを中心に導入が見られるようになった垂直式などがあります。追尾式は設備コストが高くなりますが、太陽光パネルの方位を時間帯や季節に応じて太陽の方向を向くように変えることで発電電力量を増加させることが主たる目的で、ソーラーシェアリングとして見ると作物への日射量を確保するために発電を犠牲にして太陽光を作物に届かせる運用も可能です。ただ、実際にはそうした作物に配慮した運用がなされることは少なく、コストをかけてもそれ以上に発電電力量を稼いで投資を回収できるという触れ込みのメーカーが多かったこと、一方で台風などによる設備の破損や動作不良、メーカーの撤退などによるメンテナンス継続の問題などがネックになるなどしたため、これまで国内市場に投入された製品はいずれも大きなシェアを獲得するには至っていません。

垂直式は農業機械の作業スペースを広く取ることが出来るため、大型のトラクターなどが必要となる土地利用型の作物生産などに向いています。面積当たりの太陽光パネルの設置枚数は藤棚式よりも少なくなるほか、太陽光パネルが垂直に設置されることによる景観の変化が大きくなること、人やトラクターの作業する空間に太陽光パネルが存在することによる電気的な安全性の確保、農業機械などによる衝突事故が発生すると架台だけでなく太陽光パネルを破壊する可能性があることなど、懸念される課題が多々あります。日本ではヨーロッパに比べると小規模な農業経営が多かったこともあり、特に藤棚式の設計は農業生産との共存を図ると同時に、太陽光パネルを高所に配置することで農村景観への配慮や電気的な安全性の確保を目指していましたが、海外から持ち込まれた垂直式のコンセプトはそうした設計思想から異なっているため、日本で普及させて行くには超えるべきハードルが多いという印象です。

なお、追尾式や垂直式は十分な事例情報がないこともあって、現時点では前述した営農型太陽光発電システムの設計・施工ガイドラインの対象にはなっていません。従って、もしも導入を検討する際にはそのシステムが信頼に足るものなのか、メーカーや施工会社の実績や説明が信用できるかなどを慎重に検討する必要がありますのでご注意ください。

筆者プロフィール
画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: Magami.jpg氏名 馬上丈司(まがみたけし) 1983年生まれ。

千葉エコ・エネルギー株式会社 代表取締役。一般社団法人太陽光発電事業者連盟 専務理事。一般社団法人ソーラーシェアリング推進連盟 代表理事。

千葉大学人文社会科学研究科公共研究専攻博士後期課程を修了し、日本初となる博士(公共学)の学位を授与される。専門はエネルギー政策、公共政策、地域政策。2012年10月に大学発ベンチャーとして千葉エコ・エネルギー株式会社を設立し、国内外で自然エネルギーによる地域振興事業に携わっている。

専門家として、千葉市の温暖化対策会議専門委員会の委員やっ八千代市環境審議会の委員、太陽光発電設備の信頼性・安全性向上の技術評価およびガイドライン(営農型)策定に関する企画立案ワーキンググループの委員などを務めている。
ソーラーパネルのREC公式ブログ 特別寄稿

RECのソーラーシェアリング関連記事 ソーラーシェアリングに向いているソーラーパネルの条件 

Related Post

第6次エネルギー基本計画の閣議決定を受けての太陽光発電市場の見通し その1第6次エネルギー基本計画の閣議決定を受けての太陽光発電市場の見通し その1

 10月22日に第6次エネルギー基本計画が閣議決定され、2030年度の新たなエネルギーミックス(2030年度におけるエネルギー需給の見通し)も確定しました。これによって、我が国は本格的な再生可能エネルギー導入拡大と、カー […]